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英国のデザイン政策を調べていたら、色々考え始めた。6:redfrog greenfrog STUDIO

  • redfroggreenfrog
  • 23 時間前
  • 読了時間: 9分

クラスターは、どこに生まれるのか?


前回まで、英国のCreative Clusterについて調べながら、「人」「研究」「企業」「お金」というものが、どうやら一つの仕組みの中で動いているらしいことが少しずつ見えてきました。


しかし、ここまで調べていても、まだどこか実感がありません。


「Creative Clusterとは、結局何なのだろう?」


大学がある、企業がある、研究者がいる、クリエイターがいる、そこへUKRIがお金を出す、そして、さらに民間からもお金が入ってくる。


言葉にすれば簡単ですが、実際の現場では、いったい何が起きているのでしょうか。

そこで今回は、英国に実際に作られたCreative Clusterの一つを覗いてみることにしました。選んだのは、XR Storiesです。場所は、イングランド北部のヨーク。テーマは、XR、つまりExtended Reality。VRやARなどを含む、没入型・インタラクティブなデジタル体験です。


最初にこの名前を見たときは、「VRの研究拠点なのだろうか」と思いました。


ところが、調べていくと、どうもそれだけではありません。


XR Storiesは、ヨーク大学を中心として、ヨークシャー・アンド・ハンバー地域のスクリーン産業と研究者を結びつけ、映画、テレビ、ゲーム、VR、AR、インタラクティブなストーリーテリングなど、新しい技術を使ったコンテンツづくりを支援するためのクラスターでした。UKRIの資料では、地域のスクリーン産業を、没入型・インタラクティブなデジタルストーリーテリングの英国における中心地へと発展させることが目的として説明されています。(UK Research and Innovation)


ここで、少し考えてみました。

「なぜヨークなのでしょう?」ロンドンなら分かります。映画やテレビの会社も多い。広告会社も多い。デジタル企業も多い。投資家も多い。人も集まっている。ところがヨークです。もちろん、ヨークには大学があります。そして、その周辺にはスクリーン産業やデジタル産業の企業があります。つまり、すでに「何か」が存在していた。そこで、英国政府やUKRIが考えたのは、「ここに新しい産業をゼロから作ろう」ということではなかったようです。

むしろ、「すでに存在しているものを、どうつないだら、もっと大きな価値になるだろう?」という発想に近い。ここは、私にとってかなり重要な発見でした。


以前の私は、Creative Clusterという言葉を見ると、「クリエイターを集める場所」を想像していました。しかし、どうやら逆なのです。人を集めるのではなく、すでにいる人たちの間にある関係を、つくり直す。研究者は研究をしている。企業は仕事をしている。クリエイターは作品を作っている。大学には設備がある。地域には産業があります。それぞれが、それぞれの仕事をしています。

しかし、そこには「隙間」があります。研究者から見れば、企業の課題が分からない。企業から見れば、大学の研究成果が分からない。クリエイターから見れば、新しい技術を試す場所がない。そして企業からすれば、新しい技術を試すにはお金がかかる。


そこで、その間に誰かが入ります。


「この技術を、この会社で試してみませんか?」「この会社の課題を、大学の研究テーマにできないでしょうか?」「このクリエイターと、この研究者を一度会わせてみませんか?」そうやって、それまで別々に存在していたものが、少しずつ接続されていく。XR Storiesは、まさにそのような役割を担ったようです。


UKRIが公表している資料によれば、XR Storiesは543人の雇用を支援し、2,600万ポンドの共同投資を呼び込み、地域の中小企業に660万ポンドの収益をもたらしました。(UK Research and Innovation)


数字だけを見ると、「すごい成果だ」と思います。しかし、私がもっと興味を持ったのは、その数字がどのように生まれたのかということです。例えば、大学が研究をして、その研究成果を企業へ渡す。それだけなら、これまでにもあります。しかしCreative Clusterでは、企業が研究の段階から関わります。企業が抱えている課題を研究テーマにする。研究者と企業が一緒に開発する。クリエイターも加わる。


そして、実際に製品やサービス、コンテンツを作ってみる。


つまり、研究 → 製品という一方向ではなく、企業の課題 → 研究 → 実験 → クリエイター → プロトタイプ → 事業、という循環を作ろうとしている。この違いは大きいように思います。


大学が企業に「研究成果を提供する」のではなく、企業と大学が一緒に「まだ存在していないもの」を作る。ここまで来ると、大学の役割も少し変わって見えてきます。大学は、知識を生み出す場所だけではない。地域の中で、新しいものが生まれるための「中核機関」にもなれる。そして、ここで以前出てきた言葉が、もう一度登場します。


anchor institution。「中核機関」です。



XR Storiesのような仕組みでは、大学がその中核的な拠点になります。ただし、大学がすべてをやるわけではありません。大学には研究者がいる。企業には市場がある。クリエイターには表現力がある。行政には地域政策がある。投資家には資金がある。それぞれの役割は違います。だからこそ、つなぐ必要がある。


そう考えると、Creative Clusterの本質は、「人を集めること」ではなく、「異なる能力を持つ人たちが、一緒に何かを作れる状態をつくること」なのかもしれません。


そして、ここでまた一つ、前回の話とつながりました。お金です。


もし企業が、新しい技術を使ったプロジェクトに挑戦するとします。成功するかどうか分かりません。通常の企業活動なら、当然慎重になります。しかし、研究開発の一部を公的資金が支える。大学の研究者が参加する。専門家もいる。設備もある。そして、同じような挑戦をしている企業が近くにいる。すると、「一社だけで全部のリスクを負う」という状態ではなくなります。これが、最初の公的資金が民間投資を呼び込む理由の一つなのかもしれません。


もちろん、これは私の解釈です。

公的資金を投入すれば自動的に民間資金が集まるわけではありません。


しかし、少なくとも英国のCreative Industries Clustersでは、研究と産業を近づけることによって、新しい共同研究や事業の可能性を作り、その結果として追加の投資を呼び込むことが、最初から意識されていました。


そして、もう一つ興味深いことがあります。


UKRIの資料を見ると、9つのクラスターは、それぞれまったく違うテーマを持っています。


DundeeのInGAMEは、ゲーム。

EdinburghのCreative Informaticsは、データとクリエイティブ産業。

LeedsのFuture Fashion Factoryは、ファッションとテキスタイル。

CardiffのClwstwrは、映画・テレビ。

YorkのXR Storiesは、没入型・インタラクティブなストーリーテリング。

BristolとBathでは、地域のクリエイティブ産業そのものの研究開発。


つまり、英国全体に「Creative Cluster」という一つの型をコピーしたわけではありません。


地域ごとに、すでに存在している産業や大学の強みを見つけ、その組み合わせに合わせてテーマを設定している。ここが非常に面白いところです。「全国にCreative Clusterを10個作りましょう。」という話ではない。「あなたの地域には何がありますか?」「そこには誰がいますか?」「大学には何ができますか?」「企業にはどんな課題がありますか?」「その地域だからこそ生まれる組み合わせは何でしょうか?」そんな問いから始めているように見えます。


考えてみれば、これはデザインの仕事にも少し似ています。


同じ材料があったとしても、場所が変わればデザインは変わります。同じ企業でも、置かれている市場が変われば、伝えるべき価値も変わります。だから、最初から答えを持っていくのではなく、「ここには何があるのか?」から考える。Creative Clusterも、どうやら同じような発想で作られているようです。そして、ここまで考えて、私は少し別のことが気になり始めました。


英国では、こうした仕組みを「大学」という大きな組織を中核にして作っています。大学には研究者がいる。学生がいる。施設がある。信用があります。行政との接点もあります。だからこそ、大学は「anchor institution」になれる。では、日本ではどうでしょうか。もちろん、日本にも大学があります。企業もあります。研究機関もあります。クリエイターもいます。行政もあります。そして、地域には、それぞれ固有の産業や文化があります。材料だけを見れば、それほど違わないようにも思えます。それでも、英国の事例を見ていると、もう一つ必要なものがあるように感じます。「誰かが、最初の接続を設計すること。」企業と大学が自然に出会うとは限りません。研究者とクリエイターが自然に出会うとも限りません。そして、出会ったとしても、すぐに共同プロジェクトが始まるわけでもありません。そこには、「この人と、この人をつないだら面白いかもしれない。」と考える人が必要です。さらに、「では、一度試してみましょう。」と言って、実際に動かす人も必要です。もしかすると、Creative Clusterを支えているのは、大学そのものだけではないのかもしれません。大学という「中核機関」の周りに、人をつなぐ人。プロジェクトを作る人。企業と話せる人。研究を理解できる人。お金の流れを作れる人。そうした人たちが存在している。そして、その人たちの活動を、公的資金が支えている。そう考えると、これまで見えていなかったものが、少しずつ見えてきます。


Creative Clusterという「場所」があるのではない。Creative Clusterという「組織」が一つあるのでもない。むしろ、人と人との間に、新しい関係が次々と生まれる状態。それをClusterと呼んでいるのではないでしょうか。もしそうだとしたら、次の疑問はかなり面白くなります。

「では、その人たちは、誰なのでしょう?」大学の先生でしょうか。行政職員でしょうか。企業の担当者でしょうか。クリエイターでしょうか。コンサルタントでしょうか。それとも、そうした肩書きでは分類できない、別の種類の人なのでしょうか。そして、もしその「つなぐ人」が重要なのだとしたら、一人の人間でも、その役割を担うことができるのでしょうか。


ここまで来ると、英国の話をしているはずなのに、少しずつ自分自身の仕事のことを考えるようになってきました。



もしかすると、Creative Clusterを日本にそのまま移植する必要はないのかもしれません。


大学を一つ作る必要もない。大きな施設を作る必要もない。巨大な組織を作る必要もない。まず一人が、「この人と、この人をつないでみよう。」と考えるところから始める。そこに、もう一人が加わる。また別の人が加わる。小さなプロジェクトが生まれる。そこから、次のプロジェクトが生まれる。そうやって関係が増えていく。もし、それでもCreative Clusterと呼べるのだとしたら。


これは、少し面白い思考実験になりそうです。


次回は、ここからさらに一歩進めて、「では、誰がその“つなぐ人”になるのか?」を考えてみたいと思います。そして、それは必ずしも大学や行政の中にいる必要があるのか。あるいは、企業の中でも、クリエイターの中でも、個人でもいいのか。


英国の事例を眺めているうちに、どうやら最初に考えていた問いとは、少し違う場所にたどり着いてしまったようです。 ※この連載は、筆者とAIとの対話を通じて生まれた思考の記録です。

 
 
 

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