英国のデザイン政策を調べていたら、色々考え始めた。7:redfrog greenfrog STUDIO
クリエイティブ産業は、本当に大きくなったのか?

ここまで、英国のCreative Industriesについて調べてきました。Creative Clusterという仕組みがあり、そこには大学があり、企業があり、研究者がいて、そして、それらをつなぐ人がいる。UKRIという公的な研究・イノベーション支援機関も、単純に研究費を配っているわけではなく、研究と企業、地域と市場をつなぎながら、新しい事業が生まれる条件をつくろうとしている。ここまで見てくると、ひとつ気になることがあります。そもそも英国では、こうした政策を進めた結果、クリエイティブ産業そのものが本当に大きくなったのでしょうか。
そこで、少しクラスターの話から離れて、英国経済全体の数字を見てみることにしました。

英国政府の最新の統計によると、2024年の英国のクリエイティブ産業のGVA、つまり国内で生み出した付加価値は、約1,458億ポンドでした。英国全体のGVAの約5.5%にあたります。そして驚いたのは、その伸び方です。2010年を100とすると、2024年のクリエイティブ産業は160.3。つまり、実質ベースで60.3%成長しています。同じ14年間で、英国経済全体は24.3%の成長でした。単純に数字だけを並べると、クリエイティブ産業の成長速度は英国経済全体の約2.5倍です。2023年から2024年だけを見ても、英国経済全体が1.0%の成長だったのに対して、クリエイティブ産業は4.6%成長しています。(GOV.UK)
もちろん、ここで「英国がクリエイティブ産業政策をやったから60.3%成長した」と結論づけることはできません。これは大事なところです。
経済の成長には、IT化、デジタル化、国際市場の変化、消費行動の変化、企業の事業構造の変化など、たくさんの要因があります。Creative Industriesという政策上の区分そのものも時代とともに整理されてきました。したがって、政策と成長の因果関係を、この数字だけから証明することはできません。
ただ、それでも気になることがあります。
英国では、クリエイティブ産業を政策の対象としてかなり早い時期から明確に捉えてきました。2000年代の統計を見ても、すでにクリエイティブ産業のGVAは英国経済の約5%前後を占めていました。2013年には約769億ポンド、英国全体の5.04%という統計が残っています。(Government Publishing Service) つまり、「最近になって突然クリエイティブ産業を発見した」という話ではありません。長い時間をかけて、この産業を測り、分類し、政策対象として扱い続けてきたわけです。
そして、現在のクリエイティブ産業の中身を見ると、さらに面白くなります。
私が最初に「クリエイティブ産業」という言葉から想像していたのは、映画、音楽、アート、デザイン、広告といった世界でした。しかし、英国政府の分類を見ると、2024年の最大の分野は「IT、ソフトウェア、コンピューターサービス」。そのGVAは624億ポンドです。次に大きい「広告・マーケティング」が243億ポンドです。つまり、クリエイティブ産業という言葉の中には、デジタル技術、ソフトウェア、ゲーム、広告、建築、映像、デザイン、出版など、かなり広い産業が含まれています。(GOV.UK)
ここで、少し考え方を変えてみました。
もしかすると英国が育ててきたのは、「芸術家を支援する産業」ではないのではないか。
むしろ、
「人間の創造性を、経済活動につなげる産業群」
そのものを、政策の対象として考えてきたのではないか。

そう考えると、これまで調べてきたCreative Clusterの意味も少し変わって見えてきます。
クラスターは、単に「クリエイティブな人が集まる場所」ではありませんでした。企業が持っている課題があり、大学や研究者が持っている知識があり、クリエイターが持っている感覚や技術があり、地域には地域の産業や人材があります。それらを組み合わせることで、これまで存在しなかった商品やサービス、体験をつくっていく。
つまり、クラスターとは「産業をつくる場所」というより、「異なる能力を持った人たちを、産業につなげる仕組み」なのかもしれません。
そして、ここで最初の疑問に戻ります。
では、英国のクリエイティブ産業がここまで大きくなったのは、Creative Clusterのおかげなのでしょうか。
【推測】
私は、そう単純な話ではないと思っています。むしろ、もっと長い時間をかけて、
クリエイティブ産業を「産業」として認識する。
↓
その規模を測る。
↓
企業や大学の研究とつなぐ。
↓
地域ごとの強みをクラスターとして育てる。
↓
研究開発に公的資金を入れる。
↓
民間資金や企業を呼び込む。
↓
海外市場へ出ていく。
という、いくつもの仕組みを重ねてきた。その結果として、現在の1,458億ポンドという規模がある。そう考えた方が自然なのではないでしょうか。

そして、もう一つ気になる数字があります。
英国のクリエイティブ産業は、大企業だけで構成されているわけではありません。2025年の英国政府統計では、クリエイティブ産業の登録企業数は約27万社。その93%がマイクロビジネスでした。クリエイティブ産業の中では、個人や小さな会社が非常に大きな割合を占めています。(クリエイティブ産業政策センター)
これは、私自身の仕事を考えると少し身近な話になります。
展示会の仕事をしていると、企業の中には大きな工場を持っている会社もあれば、数人で特殊な技術を開発している会社もあります。あるいは、まだ商品として完成していない技術を持っている会社もあります。
彼らが持っているものは、それぞれ違います。
技術を持っている会社。
研究をしている人。
商品をつくる人。
デザインする人。
それを伝える人。
市場を知っている人。
ところが、それぞれが別々に存在しているだけでは、必ずしも新しい価値にはなりません。
誰かが間に入って、
「この技術と、この人を組み合わせたらどうなるだろう」
「この研究を、こんな商品にできないだろうか」
「この会社の強みを、別の市場に持っていけないだろうか」
と考える。そういう人がいることで、初めて「関係」が生まれます。
ここまで来ると、私が最初に考えていた「Creative Clusterとは何なのだろう」という疑問が、少し別の問いに変わってきました。
クラスターをつくるには、大学が必要なのか。
大きな予算が必要なのか。
行政が必要なのか。
専用の施設が必要なのか。
もちろん、それらがあれば大きなことができるでしょう。
でも、本当に重要なのは、その中にいる「つなぐ機能」なのではないか。
そして、もしそうだとしたら。大きな組織がなくても、その機能の一部を個人が担うことはできないだろうか。
企業の価値を見つける。
問いを立てる。
異なる分野の人をつなぐ。
研究や技術を別の文脈に翻訳する。
新しい組み合わせを考える。
必要なら行政や大学、企業、投資家をつなぐ。
考えてみれば、展示会の空間デザインも、少し似ています。
企業が持っているものを、そのまま展示するのではない。
「この会社は、本当は何を伝えたいのか」
そこから考えて、技術や商品を、空間という別の文脈に翻訳する。
そして、その空間を訪れた人との間に、新しい関係をつくる。
もしかすると、これも小さな「つなぐ仕事」なのかもしれません。
英国のクリエイティブ産業を調べているつもりが、いつの間にか、自分がやっている仕事の意味まで少し違って見えてきました。
次回は、ここからもう一歩進んでみたいと思います。英国のクラスターには、実際に「人と人をつなぐ役割」が存在します。では、その人たちは具体的に何をしているのでしょうか。そして、その役割は、本当に大学や行政の中にしか存在できないのでしょうか。

「つなぐ人」を、もう少し具体的に見てみたいと思います。
※この連載は、筆者とAIとの対話を通じて生まれた思考の記録です。




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